イヤミス+モヤッとする小説です
友人が読んでいたので、私も気になり読んでみました。イヤミス(イヤな気分になるミステリー)の女王と呼ばれるだけあって、読後はイヤな気分+モヤッとした気分になりました。爽快感はゼロで、喉ごしモヤモヤです。
「ユートピア」では目に見えない、わかりにくい醜さが描かれています。よかれと思って「善意」でとった行動が、相手を傷つけてしまい「悪意」に受け取られてしまう恐ろしさが描かれています。
「善意」が「悪意」に変わっていく恐ろしさを描いた小説です。
目に見えない、わかりにくい醜さ
舞台は太平洋に面した港町「鼻崎町」です。物語は仏具店を営む「堂場菜々子」と雑貨屋でプリザーブドフラワーを作る「相場光稀」、陶芸家の「星川すみれ」の視点からそれぞれ描かれます。
この3人は一見仲が良さそうに見えますが、正直そんなに仲が良くないです。相手を思って、相手が傷つかないように空気の読み合いをしますが、恐ろしく空回ってしまいます。言葉足らずで行動の真意がわからなくなり、お互いがお互いを信じられなくなってしまいます。
本質的には相手を見下しているところがあり「自分が一番正しい」と思っていて、「相手のここがイヤだ。嫌いだ」という部分を明確に持っています。ですが本音で直接ぶつかり合ったりはしません。上辺ではうまくいっているようにみえますが、本当はギクシャクしています。
モヤモヤするポイントではありますが、現実でも同じようなことはあります。相手の悪いところを面と向かって直接言うことは、勇気が要りなかなかできません。相手を傷つけますし、自分も傷つく可能性があるからです。そして最初は優しさで、相手を傷つけないために言わなかったことが、愚痴、悪口となって他人に伝えられていきます。愚痴、悪口は広まり、結局は相手を傷つけるかもしれません。
作中でも悪口、噂話、ネットの書き込みで間接的に主人公達は傷つけられていきます。最初の発信源は相手を傷つけないようにという善意だったのかもしれません。でもいつしか善意は悪意に変わったのです。
相手のためと言いながら、結局は自己保身のため、利益のための行動の連続です。湊さんは一見すると優しさに見えるけども、実際は目に見えない、わかりにくい醜さを描くのがものすごく上手いと思いました。
結末にモヤッと
物語の最後にある事件が起きます。私はここでの犯人の行動が納得いきませんでした。普通の感覚なら、悪目立ちする行動は避ける立場の人間のはずなのに、何故こんなことをしてしまったのかと思います。
普通の人間と感覚がずれているのか、子供の遊びだと思って油断していたのか、真相はわかりません。けれども、行動がお粗末だなと思いました。犯人目線で事件の真相が語られることがないので、モヤモヤするポイントです。
犯人は鼻崎町全体を見下していて、自分は捕まることはないと過信していたのかなと思います。そして足下をすくわれたのかもしれません。
まとめ
人間がもつ目に見えない、わかりにくい醜さが描かれています。作品にわかりやすい悪人はいませんが、悪人がいなくても「悪意」は積もっていくことがわかります。
皮肉なのは、相手を傷つけないことが優しさだと思っていた主人公達よりも、面と向かって「すみれ」に嫌みを言っていた「るり子」のほうが好感を持てることです。相手を傷つけてでも本当の事を言うほうが、本当の優しさなのかもしれません。
たまには人間のドロドロした部分を味わいたい方は、是非読んでみてはいかがでしょうか。