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野崎まど『HELLO WORLD』感想 9月に公開される映画の原作小説

現実と仮想世界の間で繰り広げられる恋と成長の物語

野崎まどさんの『HELLO WORLD』を読みました。私は野崎まどさんの作品が好きで、デビュー作の『[映] アムリタ』から、『舞面真面とお面の女』、『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』、『小説家の作り方』、『know』と5作品を読んできました。(次に『パーフェクトフレンド』を読む予定です)

野崎さんの作品の魅力は、一見軽い作風に見えるけど、設定がしっかりと練り上げられているところです。
キャラクター同士の掛け合いはライトノベル風味で、楽しく読みやすいです。それだけではなく、『know』の電子葉の設定は重厚で近未来を感じさせてくれますし、『[映] アムリタ』のラストまで続く伏線の貼り方も素晴らしいと思います。

そして、今回の『HELLO WORLD』は野崎まどの魅力が存分に発揮されています。難解なSF設定を見事にエンタメ青春小説に昇華しています。9月20日に公開される映画の出来も楽しみです。

あらすじ

「お前は記録世界の住人だ」本好きで内気な男子高校生、直実は、現れた「未来の自分」ナオミから衝撃の事実を知らされる。世界の記録に刻まれていたのは未来の恋人・瑠璃の存在と、彼女が事故死する運命だった。悲劇の記録を書き換えるため、協力する二人。しかし、未来を変える代償は小さくなかった。世界が転回する衝撃。初めての感動があなたを襲う。新時代の到来を告げる青春恋愛SF小説。

…野崎まど『HELLO WORLD』より

恋と成長の青春物語

主人公の堅書直実はひっこみ事案で、高校生になってからクラスになじめず、休憩時間は1人で読書して過ごす少年です。お昼休憩中に自分の席を占領されて、「どいて欲しい」と言うことができずに、別の場所でお昼を食べるはめになったりします。学生時代目立たなかった人にとっては、あるあるな展開です。

勉強はやればやるほど結果が出てわかりやすいけど、人間関係は行動したあとの結果がわかりません。だから失敗を恐れて動けません。この気持ちはすごくわかって、私も学生時代にフラれるのが怖くて、何も行動せずあきらめていました。
野崎さんは学生時代に冒険せずに過ごしてきた人の心情を描くのが、ものすごく上手です。共感する部分がたくさんありました。

そんな直実が、未来の自分・ナオミと出会って、未来の恋人・瑠璃を事故死から救うという目的を与えられます。直実は人生の先生と出会い、恋をすることで加速度的に成長していきます。成長していく直実の心境の変化は、見ていて気持ち良いです。恋人・瑠璃を幸せにするために、どんどん行動的になっていきます。瑠璃とのやりとりも微笑ましくて、幸せな気持ちになります。人間が恋をして成長してく姿は爽やかで、読んでいて気持ちが良いです。

高校生の直実、未来のナオミ

高校生の直実は「記録世界の住人」で、量子記憶装置「アルタラ」によって作り上げられた記録データの存在です。実体がないデータだけの存在が、本来起こることのない出会いをすることによって、変化していきます。ここが『HELLO WORLD』の面白いところで、本来は同じ道を歩むはずの直実とナオミの行動が違ってきます。

瑠璃を幸せにするという目的は2人とも同じでも、アプローチが異なってきます。データだけの存在が意志をもって、本人とは違う行動をするというのは、ものすごくSFです。

自分と同一の存在だったものが、自分との出会いによって変化するのは不思議な感覚です。データが書き換えられるほどの、強烈な出会いを2人は果たしました。
直実とナオミ、同一人物だけど、異なる存在である2人。どちらに感情移入したかによって、物語の感じ方は大きく違ってくると思います。1週目は直実視点、2週目はナオミ視点で読んで見ると面白いかもしれません。

映画映えを意識した怒濤の展開

終盤は映画映えを意識したのか、怒濤のド派手な展開が繰り広げられます。自分が読んだ野崎さんの作品にはなかった展開なのでビックリしました。映像化されたものを見たいと思える展開です。

しかし終盤の展開は、1度読んだだけではスッキリ理解できない展開でもあります。駆け足気味なので複雑な展開に頭がついていきませんし、説明もしっかりとはされません。正直、状況を説明してくれる図が欲しいとも思いました。

ただクライマックスで盛り上がっている時に、長々と説明をするのは野暮ったくなるので、しょうがない部分もあると思います。勢いで読み進めたからこそ、最後気持ち良く感動して読み終えた部分もあります。
わからなかった分、もう一度読んでみようという気にさせてくれたので、そういう意味では説明がなくても良かったと思います。同時に映像化されたときに、どう表現、説明するのだろうと楽しみになりました。

まとめ

  • 爽やかな恋と成長の物語
  • 直実とナオミ、2人の視点で2度楽しめる
  • 映画映えを意識した終盤の怒濤の展開

『HELLO WORLD』は何度も読み直したくなる名作だと思います。9月20日に公開される映画も楽しみです。おそらく映画単体でも楽しめると思いますけども、話が複雑な部分もあるので小説を読んでから見た方がより楽しめると思います。

*『少年ジャンプ+』で『HELLO WORLD』のコミカライズが連載スタートしました(7月19日より)。こちらも要注目です。

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