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湊かなえ『落日』感想 イヤミスじゃない希望に満ちたラスト

連続ドラマが放送予定の湊かなえ先生の『落日』を読みました。湊かなえ先生の作家生活10周年の節目に執筆されたミステリー長編です。伏線回収の仕方が見事で、ラストでは思わず唸ってしまいました。

イヤミスの女王と呼ばれる湊かなえ先生の作品は、ラストにモヤっとする作品が多いのですが、本作はハッピーエンドといかないまでも希望に満ちた終わり方になっています。読後感が良いので、湊かなえ入門作品としておすすめの一冊です。

それでは、『落日』の紹介をしていきます。物語の核心部分に触れるネタバレはしていませんので、未読の方も安心してご覧いただけます。

おすすめポイント

おすすめ度: 4

本作は文庫版で約400ページと少し長めではありますが、続きが気になりすぎてあっという間に読み終えてしまいました。徐々に明かされていく事件の真相に衝撃を受けっぱなしでした。読むのは苦にならないと思います。

ただ、物語は幼少期の香視点のお話からいきなり始まるので、話の全体像がわからず面を喰らう方もいるかもしれません。各エピソードは香視点、各章は千尋視点だと意識して読み進めるのがおすすめです。

ストーリーは殺人事件の真相に主人公たちが迫っていくということもあって、ショッキングな内容も描かれています。ですが、ラストは希望を持てるようになっているので、読後感は良かったです。湊かなえ先生の作品を初めての方にも、読みやすいと思います。

あらすじ

デビュー作が映画賞を受賞した新鋭の映画監督・長谷部香からオファーを受けた無名の脚本家・甲斐千尋。千尋は、自分の生まれ故郷で起こった事件『笹塚町一家殺害事件』を新作の題材にしたいという話を香から聞くことになります。香は幼少時代に、その事件の被害者である立石沙良と関わりがあったのです。一度はオファーを断った千尋ですが、里帰りしたときに事件にまつわる話を聞き、事件の真相へと迫っていくのでした…。

物語のポイント

『落日』を読む際のポイントを簡単にまとめてみました。ここを抑えれば『落日』をより楽しめると思います。

ベランダにいたのは誰?

香の母親は躾けに厳しく、香は幼稚園に通っている頃から算数の九九を習わされます。香がドリルの問題を間違えると、罰として香はベランダへと締め出されていました。
一人で心細い思いをしていた香の支えになったのは、隣の部屋に住む沙良です。沙良も香と同じように1人でベランダにいました。香は沙良と会話を交わすことはありませんでしたが、ベランダの仕切り板の下から覗く沙良の手が彼女を救ったのです。

香が事件を調べるきっかけとなった幼少期の出来事ですが、物語の序盤で本当にベランダにいたのは沙良だったのか?という疑問が投げかけられます。隣のベランダにいた人物の正体を知ることが、本作の大きなポイントの一つになっています。

香の半生

映画監督となり、映画賞も受賞した香が、なぜ田舎で起きた事件を映画の題材にしようと考えたのか?そこには、香の幼少期の家庭環境や、父親との別れ、学生時代の事件など、香の半生が大きく関わってきます。香の半生が語られている作中のエピソード1~7を読むことで、香が根底で何を考えているのかを知ることができます。

千尋の成長

有名脚本家・大畠凛子に師事しながらも、なかなか日の目を見ない主人公の千尋。脚本家としての自分に限界を感じていたときに、香からオファーを受けます。
自分が見たいものを見るというスタンスだった千尋が、事件の真相を知ることでどのように成長していくのかというところも本作の見所の一つです。

裁判と映画

本作のテーマとなっているのが「裁判」「映画」です。事実をもとに判決を言い渡す裁判と、事件に関わった人物の感情を組み取り真実を描こうとする映画。作中で両者は、事実と真実の違いを表すために用いられています。事実だけ語られれた無機質な判決文に対して、香と千尋は映画を作るために事件に関わる人物の思いに迫っていきました。

『笹塚町一家殺害事件』の犯人である立石力輝斗は、妹である沙良を包丁で刺し、家に火を放って両親を殺害しています。事件の事実だけを聞くと、力輝斗は厳罰が免れない重罪人です。
ですが、力輝斗の普段の人柄や、何がきっかけで事件を起こしたのか真実を知ると、彼への印象は大きく変わります。私も物語の前半と後半では、力輝斗への印象が180度変わりました。

これは現実に起きる事件も一緒で、事件の事実とは別に犯人の人柄、動機などを知ることで、犯人への印象は簡単に変わります。事件発生当初は犯人を憎んだり、軽蔑したりするかもしれませんが、犯人の動機によっては、犯人に同情的な考えを持ってしまう人もいるでしょう。中には減刑を求める人もいるかもしれません。犯した罪の大きさは変わらないのに。

事件の裏にある人の感情に触れたとき、自分ならどのように感じるのか、事件への印象は変わるのか、変わらないのか。自分ならどう思うかを意識して読むと、本作を面白く読むことができるのではないでしょうか。

最後に

『落日』では、『笹塚町一家殺害事件』に関わった人たちの思いが解き明かされていきます。別々に歩んできたと思われた登場人物たちの人生が、最後には絡み合い一つの物語になるラストには思わず唸ってしまいました。希望に満ちたラストは必見です。

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