2022年11月11日に映画が公開される新海誠監督の最新作『すすめの戸締まり』の原作小説を読みました。本作は『君の名は』『天気の子』に比べてアクションシーンが多くあり、ハラハラ、ドキドキする展開が多かったです。各章毎に山場があり、読者を飽きさせない作りになっています。映像化が楽しみなシーンが多く、早く映画を観に行きたいです!
ストーリーは一言で言うと冒険ファンタジーなのですが、現実世界の出来事とリンクしている部分があり、ただの娯楽作品では終わらない部分があります。新海監督の過去作でも自然災害が作品の中で描かれていることはありましたが、本作ではより直接的に描写されているなと感じました。
この難しいテーマを扱ったことに、私は新海監督の決意を感じます。あの震災を風化させてはならないというメッセージが伝わりました。
それでは、『すずめの戸締まり』の小説について詳しくご紹介していきます。物語の核心に迫るネタバレはしていませんので、未読の方もご安心してお読みください。
おすすめポイント
おすすめ度: 4
「呪いで椅子に変えられた草太を元の姿に戻す」「旅をする途中で各地にある扉から災いが出て来るのを防ぐ」主人公たちの目的がシンプルでわかりやすいので、大人も子供も楽しめる内容になっていると思います。
鈴芽(すずめ)と草太(そうた)の2人旅を中心に描かれているので、人間関係がごちゃごちゃしていないところも良かったです。シンプルゆえに、物語のテーマが伝わりやすい構造になっています。普段あまり小説を読まない方にもおすすめです。
小説を読んだ後に映画を、映画を観た後に小説を、順序はどちらでも構わないので、是非映画とセットで小説を読んでみて欲しいです。映画で小説にはない景色、音楽、キャラクターの声を、小説で映画では描写されないキャラクターの内面を、互いに補完し合うことで、より作品を楽しめます。
物語のポイント
本作を読むうえでポイントになりそうな部分をまとめてみました。ポイントを意識して読むと、より作品を楽しめると思います。
鈴芽と草太の関係
なかば成り行きで、共に旅をすることになった鈴芽と草太。旅の当初、草太は鈴芽を家に帰そうとしますが、鈴芽と協力して困難に立ち向かっていくうちに、草太は鈴芽の事を信頼するようになります。一方で、鈴芽の方も旅をするうちに草太への想いが強くなっていきます…。2人の関係が旅を通じてどう変わっていくのかが見所の一つです。
旅を通じての出会い
愛媛で出会う鈴芽と同年代の少女・海部千果(あまべ ちか)、神戸のスナックのママ・二ノ宮(にのみや)ルミ、草太の友人・芹澤朋也(せりざわ ともや)、草太の祖父であり、閉じ師の師匠・宗像羊朗(むなかた ひつじろう)。旅を通じての出会いは、鈴芽に確実に影響を与えていきます。鈴芽が人の温かさに触れて、どのように成長していくのかも注目して欲しいポイントです。
閉じ師としての使命
本作で登場する架空の職業である『閉じ師』。閉じ師は災いが出てこないように、各地の廃墟に出現する扉に鍵をかけて回ります。ですが、閉じ師は誰にも知られず、誰からも感謝されません。そんな閉じ師の仕事を草太は割り切っているように見えますが、実は心の奥底では…。草太が閉じ師とどう向き合おうとしているのかは、あまり多くを語らない草太を知るヒントとなります。
本作の感想
ここからは、私が本作を読んで感じたことを紹介していきます。
ハラハラ、ドキドキのアクションシーンの連続
『すずめの戸締まり』は、新海監督の過去作『君の名は』、『天気の子』に比べてアクションシーンが多いです。
鈴芽と草太は災いが飛び出すのを防ぐため、廃墟にある扉を閉めて回りますが、簡単にはいきません。本来は扉に鍵を閉めるはずの草太が椅子にされて鍵を握れないので、慣れない鈴芽が鍵を閉めることになってしまいます。悪戦苦闘しながらも、鈴芽はなんとか扉を閉めて鍵をかけていくのです。
各地の扉を閉めるシーンは、映像化したら絶対に面白くなると思います。文字を追っているだけでも、何度もハラハラ、ドキドキしてしまいました。山場が何度もあり、予想外の連続で、飽きることがなかったです。
新海監督の決意
映画『#すずめの戸締まり』
ご鑑賞予定の皆様へ pic.twitter.com/KVfAk6s2aw— 映画『すずめの戸締まり』公式 (@suzume_tojimari) October 22, 2022
公式から地震描写や緊急地震速報の受信音が流れるシーンがあるとツイートされたとおり、『すずめの戸締まり』では地震がテーマで扱われています。『君の名は』『天気の子』では架空の自然災害が扱われていましたが、本作では現実世界の出来事とリンクして描かれているシーンもありました。見る人によっては嫌な記憶を思い出してしまうかもしれません。
もしかすると批判をする人や、見るのをためらう人が出て来るかもしれない中で、震災を真正面から取り上げたところに、新海監督の決意を感じました。震災を風化させてはならないというメッセージが、本作には組み込まれていると思います。
小説と映画はセットで
私は先に小説を読んで結末が分かってしまったら、映画を観に行く気がなくなると思っていましたが、その逆で小説を読んだ後にすごく映画を観に行きたくなりました。小説で描かれていたことが映画でどう表現されるか、すごく気になったからです。
例えば、小説では鈴芽の内面描写がありますが、映画では内面描写に時間をとれないと思います。鈴芽の内面をキャラクターの表情や音楽、声などの視覚的、聴覚的にどう表現していくのか想像するのがすごく楽しいです。扉に鍵を閉めるシーン、廃墟の風景など映像化して観たい場面が沢山あります。
小説を先に読めば、どう映像化するのか想像する楽しみが増えます。反対に映画を観てから小説を読めば、映画では描かれないキャラクターの内面描写や詳しい設定などを楽しむことができます。どちらからもで良いのですが、小説と映画セットで作品に触れてみて欲しいです。
まとめ
・過去作に比べてアクションシーンが多く、映像映えしそう
・困難なテーマを取り扱う新海監督の決意
・小説と映画、セットで楽しんで欲しい
『すずめの戸締まり』は、新海監督の集大成的な作品です。過去作に比べてアクションシーンが多く、読者、観客を飽きさせない作りになっています。困難なテーマを真正面から取り扱っていますが、きちんとエンタメ作品として楽しめました。是非、小説や映画館で本作を楽しんでもらえたらなと思います。