野崎まど『タイタン』感想 「仕事」とは何か?働くAIと働かなくなった人間

「仕事」とは何か?と聞かれたときに、あなたはなんと答えるでしょうか?

「生きていくためにやらなければいけないこと」
「自分がやりたいこと」
「誰かを幸せにすること」

明確な仕事観を持っている方もいるかもしれませんし、なかなか答えられない方もいるかもしれません。私もいきなりこの質問をされたら困ってしまいます。

「仕事」とは何か?今作は人間の代わりに仕事をしていたAIが「仕事」について悩み、仕事を放棄してしまいます。AIの悩みを解消するため、仕事をしたことがない心理学者の主人公がAIをカウンセリングするというお話です。
カウンセリングを通して、2人は「仕事」とは何か?という問いの答えに近づいていきます。

斬新な切り口から「仕事」とは何かという問いにアプローチした作品です。読後には「仕事」について考えるきっかけをくれると思います。

あらすじ

未来の話、人間の生活を支えていたのは「タイタン」というAIでした。今まで人間が行ってきた仕事の全てをタイタンが代わりにおこない、人間は仕事をしなくなりました。タイタンによって与えられた豊かな生活を人間達は謳歌します。
そんな中、全部で12基あるうちの1基、タイタン「コイオス」の稼働率が悪くなる問題が発生します。タイタン不調の原因を探るため、心理学者である主人公・内匠成果はAIであるコイオスのカウンセリングを行うのでした。

人知を超えた存在だけどかわいい

AI「タイタン」が人間の仕事を代わりに行うことで、人間の大半は働かなくなりました。料理も掃除もお風呂の湯沸かしまで全てを行ってくれます。

すごい仕事をするタイタンが機能不全、人間でいうところのうつ状態になってしまうのが物語の始まりです。AIながら、とても人間らしいところを見せてくれます。そんな不完全さに親しみやすさを覚えますし、カウンセリングを受けるときの姿は少年ということもあり、可愛がりたくなってしまいます。

AIと聞いて堅苦しい、難しそうと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、その心配はございません。
仕事で悩むAIは私達人間と変わらない存在です。

野崎まど先生は、『[映]アムリタ』の最原最早、『know』道終・知ルなどの人知を超えた存在を親しみやすく描くのが本当にうまいと思います。どちらもとてつもない存在なのですが、それを感じさせずにキャラクターを動かしていました。なので、彼女たちが本当の力を発揮したときに凄さがより際立ちます。

コイオスも同じように成果と話しているときは、普通の少年のようです。ムッとしたり、喜んだり、シュンとしたりする姿を見ていると、高性能のAIであることを忘れてしまいます。本書を読み進めれば、成長していくコイオスのことをきっと応援したくなるはずです。

仕事とは何か?今だからこそ考えるべき問題

本作のメインテーマとなる「仕事」とは何か?という問い。この問いは今だからこそ、考えるべき問題なのかもしれません。

コロナ渦でリモートワークという働き方が推奨され、仕事の形が大きく変わりました。今までは人と会って話すというコミュニケ―ションの方法が当たり前でしたが、それがしにくい状況になっています。リモート会議、リモート面接、リモート飲み会、非接触でのコミュニケーションの機会が増えてきました。

このお話でも、タイタンによるサポートが当たり前だった状況が、コイオスの機能不全により当たり前の状況でなくなったことから、仕事とは何か?を考えることになります。私達も状況が変わった今だからこそ、自分の仕事について改めて考える機会なのかもしれません。

今の仕事のやり方は正しいのだろうか?もっと効率の良いやり方はないだろうか?
何のためにこの仕事をしているのだろうか?仕事をしていて楽しいだろうか?

などなど仕事について見直すべき点は多々あると思います。コイオスと成果もカウンセリングを通じて、仕事への理解を深めていきます。私達も一度立ち止まって、考える時間を作っても良いのかもしれません。

AIが全ての仕事をする時代に人間は…

『タイタン』で描かれる人間の生活は、まさに夢のようです。人間は働かずに、好きな物を好きな時に手に入れることができて、AIが生活を全力でサポートしてくれます。人間は好きなことをしているだけで生きていける社会です。

しかし、本当にそうなったときに人間に存在価値はあるのだろうかと考えてしまいました。現に『タイタン』の世界では、タイタンが優秀なので、人間が仕事に関わらない方が仕事はうまくいくと考えられています。人間よりも正確な判断をAIがしてしまうのです。

こうなってしまうと、人間の存在価値って何だろうかと思ってしまいました。お荷物の人間が、いつかAIに見放されてしまうのではとも考えてしまいます。『タイタン』で描かれる世界は人間にとって楽園ですが、同時に怖くもありました。人間がAIに飼われるということが起きてしまうのではと想像してしまいます。

最後に

AI×仕事をテーマにした『タイタン』。仕事の意味を改めて考えるきっかけをくれる本です。
コロナ過で仕事への考え方が変わっている今だからこそ、本書を読んで仕事について改めて考えてみてはいかがでしょうか。

SFの話は小難しそうと思うかもしれませんが、登場人物たちの会話が軽快なので、とても読みやすい一冊になっています。普段SF小説を読まない方にもおすすめです。

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