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辻村深月「かがみの孤城」感想 いざという時に手をさしのべてくれる仲間

かがみの孤城 表紙

いざという時に手をさしのべてくれる仲間の大切さ

2018年に本屋大賞を受賞した「かがみの孤城」を読みました。辻村深月先生の本は始めて読んだのですが、多感で複雑な中学生の感情を繊細に表現されていて、ストーリーもわかりやすく面白かったです。

中学生が主人公ですが、大人が読んでも楽しめます。中学生の多感な時期を思い出し、懐かしくなります。描写に臨場感があるので、読んでいて物語の登場人物と同じように息苦しくなったりもしました。

物語の続きが気になり、一気に読んでしまった作品です。記事で物語の魅力が少しでも伝わればと思います。

あらすじ

中学1年生になったばかりの安西こころは、あることがきっかけで不登校になってしまう。学校に行けず家にいたある日、こころの部屋の鏡が光り出す。光る鏡に手を入れると、鏡の中に吸い込まれてしまう。

鏡の中で待っていたのは、オオカミのお面をかぶった少女と自分と同い年くらいの6人の子供達だった。

子供達は「かがみの孤城」の中で鍵を探し、ねがいの部屋に入ることができれば、何でも一つ願いが叶えられると、オオカミのお面をかぶった少女から教えられる。名も知らぬ少年・少女の交流と鍵探しが始まる。

優しくもあり、厳しくもある「かがみの孤城」

主人公達は現実世界と「かがみの孤城」というファンタジー世界を行き来します。鏡の中にある城は夢のような世界ですが、あくまで現実と地続きの世界です。「かがみの孤城」に行ったからといって、現実世界の悩みが解消されるわけではありませんし、主人公達に特殊な力が付与されるわけではありません。現実世界での問題は変わらずに存在し続けます。

作品でのファンタジー世界は、新しいコミュニティとして機能します。学校と家しか居場所がなかった主人公達を、「かがみの孤城」は受け入れます。

「かがみの孤城」は場所として存在するだけですが、居場所があることで主人公達は救われます。家・学校以外のコミュニティの存在、仲間が、主人公達の気持ちを少しずつ楽にしてくれます。

小学生や中学生の時は家と学校以外の世界が分からず、家と学校だけが世界の全てです。だから家・学校での居場所がなくなると、自分は世界から嫌われている、自分には居場所はもうないと感じてしまいます。

でも実際には家・学校以外にも、自分が存在しても良い場所はたくさんあります。子供の頃はそれに気づけません。だから子供達に家・学校以外にコミュニティと、そのコミュニティの場所を教えてくれる大人が必要なのです。

「かがみの孤城」は子供達にとっては優しい居場所ですが、厳しい場所でもあります。「かがみの孤城」で起こることは楽しいことばかりではありません。意思疎通がとれずケンカをすることや、仲間との距離感がわからなくなり城に居づらくなることもあります。

仲間内で起きた問題にたいして、「かがみの孤城」は力を貸すことはしません。問題解決は主人公達に全て委ねられます。主人公達だけの力で問題を解決しないといけません。自分達の問題は自分達で解決しろというスタンスは、「かがみの孤城」の厳しさだとも思いました。

いざという時に手をさしのべてくれる仲間

集められた7人の中学生達は、毎日「かがみの孤城」に全員が集まるわけではありません。城に行くことを強制されないので、好きな時に城へ向かいます。城には2人しかいないときもありますし、7人全員いる日もあれば、1人もいない時もあります。

全員が共通の悩みを持ってはいるけれど、お互いが傷をなめ合い慰め合うということはしません。お互いの事情は詮索しませんし、積極的に自身に起きている問題を話したりはしません。(きっかけがあれば話します)お互いがお互いを深く理解しあっているわけではありません。

一見すると中学生達に深い絆ができているようには感じません。ですが主人公達は徐々に歩み寄り信頼関係を築いていきます。お互いのことを全て知らなくても、普段の言動で「この人は裏がなく悪い人じゃない」というのが分かれば、人を信頼することはできます。

お互いを信頼しているのがわかるシーンは、3学期が始まる前に主人公の1人・マサムネがあるお願いをみんなにするシーンです。そのお願いは5人にとってはハードルが高く、自分が傷つく可能性があるものです。でも5人はマサムネのお願いを快く引き受けます。自分のためにというのももちろんありますが、お互い仲間を助けるために、一致団結して勇気を出します。

こういう「いざという時に手をさしのべられる」関係は理想的です。いつも隣で寄り添ってくれる人も大事ですが、困っているときに真っ先に駆けつけてくれて助けてくれる人が、子供にとっても、大人にとっても大事なのではと思います。

いつもべったり仲良しこよしでいる必要もないですし、お互いを深いところまで全て知る必要もないです。「いざという時に手をさしのべられる」関係を築けることが一番大事だと思います。

まとめ

 
「かがみの孤城」の主人公は中学生7人(+1人)
新しいコミュニティの場として「かがみの孤城」が存在するから、主人公達は救われる
「いざという時に手をさしのべられる」関係をつくることの大切さ

「かがみの孤城」のストーリーは複雑ではありませんが、伏線が随所にちりばめられています。終盤に伏線が一気に回収されて、物語から目を離せなくなります。一気読みすること間違いなしだと思います。

中学生7人のちょっと不思議で切ないけど、心温まる物語に触れてみてください。

かがみの孤城 表紙
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